人を育てる

理事 利根川恵子

 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、侍ジャパンが接戦の決勝戦を制して、劇的に3大会ぶり3回目の優勝を勝ち取った興奮も冷めやらないうちに、翌日、3月23日に、ウィントン・マルサリス率いるセプテットのジャズコンサートに行きました。WBCの選手といい、ウィントン・マルサリスといい、持てる才能が開花し、努力や鍛錬によって磨かれた技術が、極地に達している、超一流の人々です。

 すべての人々がこのような超一流の領域に達することはできませんが、少なくとも、自分の持てるものをできるだけ引き出し、伸ばして、より充実した人生を送る権利を持っています。それを実現していく一つの機会が教育です。もともと教育という意味の英語、’education!は、ラテン語で’e’は「外へ」、’ducation’は「何かを引っ張ること」を表しているそうです。ですから、’education’という言葉は、その人の中からその人自身が持っている潜在的な才能を引き出すという意味を持ちます。

 ウィントンを聴きながら、ふとIV-JAPANの職業訓練のことを思いました。IV-JAPANの活動は、様々な分野における職業訓練を通じて、まさにアジアの女性や青年の潜在的な能力を引き出そうとする活動で、私たち会員は、間接的ながらこの尊い活動を支えているのです。

 「誰も取り残さない」を合い言葉に全世界で取り組みが奨励されているSDGsですが、2019年に発表されたOECD諸国のダッシュボードを見ても、緑色の達成できている項目は少なく、先進国でも目標達成が厳しい状況がわかります。他の色は未達成項目で、黄色、オレンジ、赤の順に達成度が低くなります。ここで私が話題にしている「人を育てる」項目に1番強く関連しているのは、「4.質の高い教育をみんなに」となりますが、残念ながら先進国においても緑は少ない状況ですから、発展途上国ではまだまだほど遠いということでしょう。

 マザー・テレサの名言に「私たちの行いは大河の一滴に過ぎない。でも何もしなければ、その一滴も生まれない」とあります。小さな一滴でも人を育てることに貢献できることは、教育者として歩んで来た私にはとても意義のある、うれしいことです。折しも、事務局から会費の納入と寄付金の依頼が届きました。ラオスでの職業訓練を通して、女性や青年の自己実現の一助となるよう、今年も小さな一滴をお届けしようと思います。