11枚の義捐のTシャツ

「フーテンの寅さんみたいですね」

元いた会社のロビーでトランクケースを開けて荷物を取り出す私を見て、受付のおねえさんが笑った。そうかもしれない。最貧国への義捐だと口上をたれ、なかば強制的に売りつけているのだから、おしゃれな化粧品会社の応接ではめったに見られない光景だったに違いない。

それでもみな優しい人たちばかりで、ラオスで作ったTシャツは縫製が粗末なだけでなく、デザインは大袈裟で恥ずかしいし、かなりの確率でシミや色移りも見られるものだったが、だれ一人、私の押し売りを断わらなかった。会社の先輩である私を慮ってくれたのか、義捐という響きの良い言葉に協力してくれたのか、用意した50枚近くのTシャツはまたたくまに売れてしまった。

ちなみにTシャツは現地で義捐金を集めるためにラオスの人たちが作ったもので、日本とラオスの国旗が並んでプリントされている。手にした人はまず苦笑いをする。着こなす勇気のある人はほとんどいなかった。

ある小さな会社の社長が10枚買ってくれた。社員に配るという。さっそく私はその会社に出向いた。お土産と最近出したばかりの本もいっしょだ。10枚のTシャツにかける販売コストは異常に高い。

社長は不在で若い社員が出てきた。話は通じており、恭しくTシャツを受けとってくれた。ところがこの時私はその中の一枚に、インクの色うつりの激しいものを見つけてしまった。困惑する私に、

「大丈夫ですよ。デザインだと思えばいいのですから。私は気にいってますから、これは私がいただきます」

若い社員はそう言って、あとで新しいものに取り換えると言う私をさえぎった。

心穏やかでなかった私は、後日新しいシャツを持って再訪した。社長は忙しいらしく、この日も不在だった。代わりにまた彼が出てきた。そしてこんなことを言った。

「あくる日、社長から社員に配るようにと9枚のTシャツを渡されました。でもその中にあのシャツはありませんでした。社長用にはいちばんきれいなやつを見つけて、別に渡したのですが」

必要なくなったもう一枚のTシャツまで買ってもらった私は、この会社がうらやましくなった。義捐の品のもらわれ方にふさわしいと思った。この社長とは長い付きが続いている。

 (2011年の出来事:副代表理事 池田敏秀)