複雑なラオスの公務員採用制度

代表理事 冨永幸子

私はラオスで草の根の人たちに職業訓練を実施していますが、社会主義国のラオスでは事業を実施するときのカウンターパートはNGOが少ないので、地方自治体と協働することが多いのです。そして仕事柄、公務員や教員と一緒に実働します。

なぜならば、プロジェクトの終了後は現地カウンターパートに運営を移譲し、日本人専門家は帰国します。訓練に参加したラオス人指導者に継続して事業を行ってもらうため、公務員や教師だった人たちを一から訓練し、トレーナーや運営マネージャーになってもらい、事業を継続します。公務員の給料は地方自治体から支払われるので、指導者が確保できれば事業が継続しやすいのです。

公立の小学校や幼稚園の先生が職業訓練校の縫製や調理、美容などといった分野のトレーナーになるのですが、最初はお給料が安くなるので、とても嫌がってましたが、技術が身に着くと、勤務は午前8時~午後4時までですので、夕方から、また土日の休日にブティックや美容院を自宅で開業でき、副収入が得られるので、今ではとても喜んでいます。

しかし、このところ、せっかく2~3年も訓練した、例えば木工家具つくりの職業訓練でカウンターパートから派遣された指導者が、せっかくいい技術が身に着いたのに辞めていくケースも見られ、そこでどうしてなのか、調べてみました。

〈複雑なラオス事情〉

実は地方自治体や国家公務員採用試験が毎年実施されますが、その前段階に各省や機関は内務省から割り当てられた新規採用枠を公表します。まず第一の壁となるのが、各省や各機関から用意される〈申請書用紙〉は、あらかじめ50枚~100枚程度に限定して、それ以上は応募できないようにします。無事申請書を購入できた応募者だけが、公務員試験に臨めるわけですが、ここで次なる壁があります。

筆記試験に受かると、次に面接があり、合格すると無事公務員になれるかと思いきや、直ぐ公務員にはなれません。立場としては公務員ですが、最初は給与など待遇の面での扱いが「95%職員」と呼ばれて、試用期間(お試し期間)があります。試用期間の給料は、ラオスの最低賃金で、月額15,000円弱のうち、95%か、それ以下が支給されます。試用期間は通常6か月間ですが、能力や成果の評価によっては2・3年に及ぶこともあります。また、3カ月の産休などを取ると評価が低くなり、正式採用まで3・4年待つケースもあります。実際、産休を2回続けて取った私の知人は、23歳で採用されて以来、27歳の現在も試用期間中です。

更に関係するのが、「クォータ」と呼ばれる割当制度です。これは何かというと、今年2022年度はラオス全体の公務員は1300人採用すると、首相から発表がありました。内容は16各省に906人、国会・最高裁判所等に40人、共産党に28人、研究機関に8人、1都17県に318人、となっています。中でも群を抜いて多いのが、教員を採用する教育スポーツ省が350人、医療関係者を採用する公共保健省が335人。他省は数人~10数人程度です。外務省ですら5人です。ちなみにここには国家公務員に当たる軍隊や警察などは含みません。

データはないのですが、公務員の給料は安いのに、この狭き門になぜ学生の人気があるのかというと、公務員になるとやる気のある人は留学のチャンスがあるし、国際会議に出て外国に行くチャンスがあるので、キャリアーも得られる。それに、役得が多い。例えば、公務員住宅に入れる、偉くなると車両の支給もあるし、医療保険は家族も無料、定年後は年金が支給され、安定して解雇されることもない。

一般の公務員でも制服があるので、何よりも社会から一目される、といったところでしょうか。また、私の知り合いの夫がある省の運転手をしてますが、子どものノートやボールペンなどの勉強用具は買ったことがない、全部、勤務先からもらってくるとのことです。

〈ボランティア公務員〉

もう一つの公務員になれるケースがあります。それは「ボランティア職員」です。

通常の公務員採用試験と同じように、筆記試験と面接を受ます。受かると、ボランティア職員として無給で働き始め、仕事ぶりが評価されると、上司が関係省にクォータ、つまり、正式採用への割り当てを要請します。ただし、この場合、2~3年はただ働きを余儀なくされ、正式採用まで4~5年はかかるのが普通です。ですので、そのうち諦めて辞職する職員が多いです。

内務省は財務省と協議して、割り当てを決めますが、まず定年退職や辞職者の数、新規役職の数等を調べ、予算との兼ね合いも見て決定します。それを首相府に上げ、首相が3月には決定し、その年の正式採用者数を発表します。採用人数が割り当てられた機関は6月に試験を実施し、7月には採用を決めます。

各省、機関の95%公務員やボランティア公務員は平均25%に上ると言われています。

現状では4人に1人が試用期間に当たる職員か、無給ボランティア職員の「非正規公務員」です。これが複雑なラオスの公務員採用制度です。

当会の事業の トレーナーだった彼は、無給ボランティア職員でした。このような制度の中で、長年、正式採用に至らず、無給のままで生活が成り立たなくなったので、辞めたことが分かりました。彼は木工家具の技術が身に着いたので、民間の家具会社などには就職できると思います。私は身近に起きた出来事から、いわば駆け出しの公務員の置かれた環境がいかに過酷なものか分かりました。