ラオスの川イルカ絶滅

 代表理事の冨永です。

 ラオスのメコン川に生息していた最後の1頭のイラワジ・イルカが2月15日に亡くなったと報道されました。イラワジ・イルカは和名を「カワゴンドウ」=河巨頭=とも呼ばれ、メコン川、ミャンマーのイラワジ川、インドネシアのマハカム川など東南アジアの河川の河口や海岸近くの海域に生息する小さなイルカで、大きくても体長は2.5メートルの淡水生物です。私も20数年くらい前の1997年にラオスに来た頃は物見遊山でイルカを見に行きました。ラオス南部のカンボジヤの国境近くのメコン川に泳いでいるとのことで、2~3人乗りの細長い小舟をチャーターして、エンジンを切り、炎天下、静かに待つこと1時間、運よく3~4頭のイルカが川面に顔を出し、見ることができました。イルカは水中にいられるのは普段は30~60秒、長くて12分まで潜っていられます。チャンパサック県のコーンパペンの滝から下流のカンボジヤにかけておよそ190Kmの水深10~15mに生息していました。

 1997年の調査ではラオス・カンボジヤでおよそ200頭の川イルカの生存が確認されていましたが、2009年にはすでにWWF(旧称:世界自然保護基金)は川の汚染で絶滅寸前と警告を発して、生存しているのはラオス・カンボジヤ合わせて64頭から76頭と推定していました。その年のWWFは過去2003年から2009年に回収した50頭のイルカの死体を調べ、中から殺虫剤、水銀等の有毒化学物質を検出して、メコン川の環境変化でイルカが生きずらくなっていることが分かりました。水力発電所の建設で餌となる魚の減少や、違法なジルネットと呼ばれる刺し網(魚の通り道に帯状の網を仕掛けて大量に魚を取る)を使った漁法や電気や爆薬を使う漁業などで餌の魚が少なくなるという不幸も原因として考えられています。

 2016年12月にWWF はラオス側に3頭のイルカの生存を確認し、絶滅の警告を発していました。ちなみに2017年には国際自然保護連合がイラワジイルカを「絶滅危惧種」に指定しました。2021年4月に3頭の内メスのイルカが亡くなり、6月にもう1頭のメスが亡くなり、今年2月15日に最後のオスのイルカ(推定20歳以上)が亡くなり、尾びれには魚の網が絡まっていたそうです。イルカの平均寿命は30歳とのことですが、ラオスのイルカは絶滅してしまいました。

 カンボジヤ側では水産局とWWFが協力して、2020年10月の調査で89頭のイラワジイルカの生息を確認しています。朝、昼、晩と1日3回のパトロールを強化して、違法な漁法や密猟を取り締まり、保護に全力を挙げています。イルカのいる場所はその地域の川の生態系と健康がすぐれていて、大型魚メコンナマズなど、あらゆる種類の魚が豊富で、多数の固有種を含めた絶滅危惧種が生息しています。

 メコン川源流はチベット高原に発し、中国雲南、ミャンマー、ラオス、カンボジヤ、ベトナムから南シナ海へ流れる、全長およそ4800Kmの世界第12番目の大河です。日本一の信濃川と比べても14倍の長さです。メコン川には1200種の魚がいると言われています。世界には川イルカは7種類あり、南米アマゾンに3種類、インドのガンジス川とブラマプトラ川に2種類、中国の揚子江、そしてメコン川のイラワジイルカです。

 WWFラオス専門家のミア・サインズさんによると、「『川イルカは水の番人』と呼ばれ、工業・農業・生活汚水を川に流さないで、きれいな水を保つことがイルカのみならず、川とともに生活している人間にとっても大事なことです。今回のイラワジイルカの絶滅 は本当に悲しいニュースです。人間だけの世界でなく、動物も一緒に暮らせる環境を守らないと、動物だけでなく私たちが住む場所も危険に侵されます」とサインズさんは語っていました。

ラオスの民謡で、「メコン川」という歌があります。母なる川という意味ですが、歌詞は

~メコン川はたくさんの恵みを与えてくれる きれいな水、たくさんの魚、涼しい風、米や野菜も作れる、水浴びもできる、、、~

メコン川はラオスの人々の生活にとってとっても大事な大事な川なのです。