日常の仕事に出てくる国際化 その2

監事の税理士の森本進です。3年前にベトナムに行って以来、海外に行く機会が全くありませんでした。この間真新しい出来事がないため、今回も前回に続き税務に係わる国際化について書かせて頂きます。

日本の相続税は、原則亡くなった方が所有していた全ての財産を対象として税金を課税します。全ての財産なので、日本国内にある財産だけでなく、国外にある財産も対象となります。

そのため、相続税の申告を行う際には、国外財産も含めて申告を行う必要があるのですが、「申告しなくても、日本の税務署にはばれないのでは?」と聞かれることがよくあります。過去にはそのような時代もあったかもしれませんが、「ばれる可能性が高いです。その時には本税だけでなく、延滞税と加算税もとれます。」と答えます。理由は、この数十年の間に、国外財産を把握するための様々な仕組みが作られたためです。

国外にある財産を確認する方法には、①国外財産調書、②国外送金等調書、③国外証券移管等調書、④CRS(共通報告基準)の基づく自動情報交換制度があります。今日はそのうち、②国外送金等調書と、④CRS(共通報告基準)の基づく自動情報交換制度について、ご紹介します。

海外送金等調書は、平成10年に導入されました。100万円以上の送金をした場合、または受けた場合に、銀行がその内容を税務署へ報告する制度です。提出内容は、「いつ、誰が、誰に対して、いくら送金したか」です。税務署では、提出されたデータを精査し、必要に応じて「お尋ね」という書面を当事者へ送付します。これより、送金の目的を確認し、国外で所有している財産(不動産や株式)の収入を申告しているかが確認されます。そのような情報が税務署内で蓄積され、将来相続が発生した場合に、その収入のもととなっている財産の申告漏れがないかが確認されることになります。

CRS(共通報告基準)の基づく自動情報交換制度は、平成29年に導入された新しい制度です。国外の銀行を利用した脱税が後を絶たないことをきっかけに導入されました。この制度により、1年に1回、日本の居住者が所有する国外の口座情報が自動的に国税庁に入ってきています。入ってくる情報は、「口座所有者の住所、氏名、口座の残高、利子配当の年間受取総額等」とされています。アジアでは、台湾、マレーシア、中国、シンガポール、韓国、インドネシア、香港から口座情報が毎年自動的に入ってきています。その中には、国税庁がこれまで把握できていなかった情報もかなりあると言われています。実際、この制度で入手した情報により、申告漏れの国外財産を見つけ、重加算税を含め1億6千万円を追徴課税した事例が公表されています。

国外に財産を移せば税務署にはばれない、というのは昔の話になりました。今後も税務署は、国外財産を把握する体制を強化してきます。より一層正しい合法的な相続税申告が求められます。